今日もどこかへ帰りたい

帰る場所なんてない、都合のいい女の独り言

乾かない洗濯物

本州の雪の降らない地方では、冬でも洗濯物を外に干すということを、わたしは大人になって初めて知った。

むしろ、わたしの実家では夏でも洗濯物は室内に干すのが普通だった。外に干すのは、主に寝具などの大きな洗濯物だけだったので、洗濯物というのは、特別な時にだけ外に干すのだと思っていた。

そんな生活が当たり前だったからか、一人暮らしを始めてからも、ベランダという便利なものがあるというのに、わたしはほとんど外に洗濯物を干したことがない。だって、虫とかつくかもしれないし。洗濯物が落ちて、汚れてしまうかもしれないし。

 

下着泥棒の話をたまに聞くが、これに関しても不思議だと思っていた。なぜ外に干さないのに下着を盗まれるんだろうと思っていた。そして、その下着泥棒の対策として、男性用の下着などを一緒に干しておくといい、という方法があるということも、大人になって知った。

面倒だなあ、と思う。そんなことしないで、下着だけでもいいから、室内に干せばいいのにな。なんでそうしないんだろう。

 

どうして洗濯物の話をするかというと、先日、洗濯物を取り込んでいる途中、物干し竿に見覚えのない趣味の悪いTシャツがぶら下がっていることに気が付いたからだ。それから、2枚のボクサーパンツも。あと、靴のサイズは基本的にSサイズであるわたしの足には大きすぎる靴下。

そんなものたちが、頭上にあるエアコンからの温風にゆらゆらと揺られて、こっそりと存在を主張していることに気が付いた。

 

先月別れた恋人のものである。

処分していいよ、と言われたにも関わらず、わたしは彼の服を洗濯していたのだ。

 

毛玉だらけのTシャツを畳んでクローゼットにしまおうとして、躊躇った。処分していいと言われているんだから、せっかく洗濯はしたけど、もうこのクローゼットに仕舞い込む必要はないのでは?そう思った。

けど、以前の恋人は何せ服の枚数が少ない。かわいそうになるほど、手持ちの服が少ない。付き合っている間に、何枚選んで、買ってあげたんだろう。手元にある、黒字に赤いギラギラした英語が描かれている、まるで中学生みたいなセンスの服は、もちろんわたしが選んだ服ではないけれど。

それでも、彼にとってはたぶん貴重な冬服のひとつなんだろう。処分せずに、洗濯機に放り込んだのも、彼のタンスの事情を知っているからだ。なんだか彼がちょっとだけかわいそうに思えて、我が家に取り残されていた数枚の下着たちと、それからクリスマスに思い立って彼のために購入したけれど、結局渡すことのできなかったYシャツとスキニーパンツと一緒に、小さな紙袋に入れて部屋の片隅に置いておくことにした。

 

いつかこれを渡す機会があるのだろうか。ないような気がする。それならいっそ、早々に彼の家に送りつけてしまおうか。その方がきっとわたしの精神衛生面的にも安全だろう。

それとも、下着泥棒対策として、洗濯物に紛れさせて干しておこうか。夏になったって、ベランダに洗濯物なんか干さないくせに。

 

今月の末には、何人かの恋人と一緒に過ごした時間も多い、ワンルームのこの小さな部屋から、わたしは出て行く。

これをどうするかについては、その時まで、あともう少しだけ、考えることにする。