今日もどこかへ帰りたい

帰る場所なんてない、都合のいい女の独り言

二度と会えない

わたしの好きな人はわたしの住んでいるところよりも800kmほど遠いところに住んでいる。彼とわたしはお付き合いはしていないらしいが(らしい、なんて曖昧なのは、彼が言葉を濁しているから)、一応お互い好き合ってはいるようなので、本当なら今すぐにでも彼のところへ飛んで行ってしまいたいところなのだが、何せお付き合いもしていない程度の間柄じゃ、彼のことを追うことも躊躇ってしまうのである。躊躇うくらいじゃあ本気で彼のことを好きじゃないのだから、やめてしまえなんて思う人もいるかもしれない。ただ、ここには書かないけれど、わたしと彼のなんとも言えない、微妙で腹立たしい関係、それからわたしの家庭の事情などを考慮した結果、躊躇っているのだということをどうか分かって欲しい。気持ちだけで、身一つで彼の元へ飛んで行けるほど、わたしも彼ももう若くはないのだ。

彼と離れ離れになってもう2ヶ月と半月ほど経つ。一応毎日のLINEのやり取りと、2週間に一度ほどかかってくる彼からの愚痴の電話に対して、そっかそっか大変だね、と相槌を打つ程度の関わり合いはしてきたつもりである。ただ、ここ最近になって彼の様子が少し変わり、今度は更に離れた大都会・東京に転職活動に向かうと言い始めた。ただでさえ、彼は地元を離れる際にあーだこーだと文句を言いながら飛び立ったのである。それが、また更に遠くへ行ってしまうのかと思うと、呆れなのか、悲しみなのかわからないけれど、とにかくため息が出た。彼がどうしたいのかまったくわからない。おそらく、彼自身もわかっていないのだろうと予測している。自分のやりたいこと、できること、何もかもが迷宮入りしてしまっているのだと思う。もちろん近くにいれば、少しでも彼の力になれるようわたしも努力しただろう。けれど、こうも距離が離れてしまっている以上、わたしにできることなんて、何もないのだ。そして、わたし自身にも、そんな不安定な彼の元へ飛んで行って、彼と将来を見据えながら一緒に過ごし、彼のことを支えられるような自信も、勇気も、それからお金だって、手元にはないのである。

ただ、彼は今の時点で、わたしに自分の元へやってくるよう言葉にすることが多々あった。わたしも、その言葉に乗って、彼の元への引越し資金の計算などをしたこともあった。彼はその分のお金も自分が払うとなんの迷いもなく言った。その時に初めて、彼のほうがわたしとの関係について前向きに考えてくれているのかもしれないと気が付いた。なのに、わたしは準備はほぼ整っているという彼の言葉に対して、でも、と言葉を濁すことしかできなかった。両親や兄弟からの言葉、恋人ではないという微妙な彼との関係性、そして未だに自立することができない自分への不甲斐なさ。それらがごちゃ混ぜになって、彼と一緒になることについて二の足を踏んでいるのは、自分だけなのではないかと薄々気が付き始めている。結局のところ、またわたしがすべて悪いのだと。

堂々と恋人の元へ飛んで行ける人が羨ましいと思う。転勤になった彼について行く人、遠距離の彼の元へ引っ越す人。もちろん、そういった人にもたくさんの障害があって、それを乗り越えてきたのだと思う。その中には、わたしが今抱えているような問題もあったのだと思う。ただ、それはすべて「恋人」の側にいるための行動であるということが大前提なのである。恋人。いつか結婚するかもしれない人。もう何年もお付き合いを続けている人。もう一生側を離れたくない人…

わたしは彼のためにそこまでできるんだろうか。彼のために問題を乗り越えることができるんだろうか。彼の側にいることが、わたしの願いなんだろうか。考え出すときりがない。最初にも書いたとおり、わたしも彼も、気持ちだけで行動を起こせるほど若くはないのだ。年齢的にはまだまだかもしれない。けれど、特にわたしには、もう時間がないのだ。女として生きて行ける時間が、わたしにはもうあまり残されていない。今後の行動には、慎重にならなければならない。そんな気持ちが、わたしのなけなしの勇気にさらに待ったをかける。そして、さらに離れた場所へ行ってしまうと言う彼の気持ちや行動も、わたしの彼を好きだという気持ちをどんどん吸い取ってしまう。自分のやりたい仕事に就けず、人生について迷走する彼。そんな彼の気持ちを読み取れず、人生において迷走するわたし。いつ終わりが来るかわからないこの関係を、わたしたちはいつまで続けるつもりなんだろうか。