今日もどこかへ帰りたい

帰る場所なんてない、都合のいい女の独り言

無敵の集団

本日、職場からの帰りの出来事である。

 

今日も1日頑張った、とため息をつき、左耳、右耳とイヤホンをさしながら、地下へ向かう職場のビルのエスカレーターに飛び込む。時間帯が時間帯であるため、下りのエスカレーターはぎちぎちなくらいに人が並んでいたが、隣の上りエスカレーターには、ぱらぱらとしか人が立っていなかった。すれ違う人々は皆疲れた顔をしている。皆さん、今日もお疲れ様。明日も頑張ろうな。心の中でエールを送る。もう付き合って5年ほどになるiPod nanoを片手に帰りは何を聴こうか、と今まさに悩み始めようとした途端、上りエスカレーターの乗り口付近に、6人ほどの女の子たちが固まっているのが見えて、思わず思考が止まった。

 

クローンだ。もしくはストームトルーパー。

どっちも同じようなものだけど、とにかくそれだと思った。

 

まず、わたしほどのショートカットの女の子はいなかった。むしろ、肩につく程度のミディアムボブの子すらいなかった。派手すぎず地味すぎない、ちょうどいい茶髪。胸のあたりで揺れる、ちょうどいい長さの巻き髪。全員が全員、ほぼ同じような髪型だった。頭のてっぺんが黒くなりつつあるような、そんな手抜きは許されない。毛先まできっちりと綺麗な茶髪だ。強いて言えば、前髪がセンター分けであるか、斜め分けであるか、もしくはぱっつん前髪か、程度の違いである。

それから、わたしのようにでっぷりと着膨れするようなもこもこのモッズコートを着た女の子はいなかった。アジア系の観光客が着ているようなダウンジャケットを着ている子ももちろんいなかった。ガーリーすぎずカジュアルすぎない、ちょうどいいシルエット。甘すぎず個性的すぎない、ちょうどいいパステルカラー。こちらも全員が全員、ほぼ同じようなチェスターコートを着ていた。ピンク、ブルー、ベージュ、グレー、もう一回ベージュ、もう一回グレー。4色展開だ。強いて言えば、靴の形がロングブーツであるか、ショートブーツであるか、程度の違いである。

 

彼女たちはちんたらと歩きながら、2人ずつに分かれて上りエスカレーターに乗った。その後ろで、これは見事にてっぺんだけが禿げ上がった中年のサラリーマンが、追い越したそうな顔をして、女の子たちを見上げていた。

 

「なんかいいにおいするー」

「わかるー!」

ジンギスカンだよねきっとー」

ジンギスカンのにおいかー」

「おなかすかないー?」

「わかるー!」

 

全体的に語尾は伸ばし気味だ。それから「わかるー!」の一言は、誰が言っても他の言葉よりも2トーンくらい高めで、声のボリュームも通常が20だとしたら26くらいの絶妙なバランスで、彼女たちの姿が見えなくなるまで、あと2回ほど繰り返されていた。

 

わたしはこういう女の子の集団を見ると足の裏にじんわりと嫌な汗をかく。歩いている後ろに気配を感じようものなら、玩具のようなカートに乗った皆さんご存知の配管工・マリオが、アイテムボックスから見事にスターを引き当て、無敵状態になりながら後ろから煽ってきているかのような気持ちになった。こんなときばかりは、足の裏にどころか、もれなく脇からの汗も止まらなくなる。

 

こういった女の子の集団のことを、わたしはこっそりと「無敵の集団」と呼んでいる。

つまり、スターを引き当てた、無敵状態のマリオが集団になっているのだ。

そんなの、怖いに決まっている。

 

女という生き物は、共感をする生き物である。友だちに悩みを打ち明けるときにも、その悩みに対するアドバイスなど求めてはいないのだ。男性がこの正解にたどり着くことができず、困り果てている姿をよく見かけるが、女の子の悩み相談には、基本的には「わかるー」とか「あるよねそういうのー」とか相槌を打っていればいいのだ。まともに話を聞き、解決の糸口を見つけようとするだけ無駄である。むしろうっかり糸口を見つけてしまい、的確なアドバイスなどしようものなら、そこが喫茶店だとしたら、おそらく冷えたカフェオレを顔に引っかけられるだろう。

女はそういう生き物であるから、友人同士で痛烈な批判をしない。軽口で「それはあけみが悪いよー!」なんて笑い飛ばすことがある程度で、相手も「そうかなー?」なんて、本気にしないことがほとんどだろう。だから無敵なのである。その集団の中で、自分を強く批判してくる人物はまずいないのだから。つまり、自分が悲しむことも、傷つくこともほぼないのだ。これは無敵であると言っていいとわたしは思う。

 

ここで間違ってはいけないのは、女の子が無敵な訳ではないということである。むしろ、女の子は脆い生き物だ。正確に言うと、脆い生き物であるように見せかけるプロだ。女の子は1人でいると、たちまち脆弱になる。脆弱になって、世の男たちに守ってもらおうとする。その点では女の子は1人でも無敵と言っていいのかもしれないが、それでも女の子たちは意外と1人でいるときは、大人しく行儀のいい生き物になる。

例えば、1人でいるときは、地上と地下鉄の改札を結ぶエレベーターにあまり乗らなくなる。1人ならほぼ迷わず階段を選ぶだろう。だが、これが仲の良い女の子2人、3人になってみたらどうだろう。「歩き疲れたよねー」「エレベーター乗る?」「いんじゃない、疲れたし」なんて言ってキャーキャーとやたらに笑い声を上げながら、エレベーターに乗ること間違いない。こうなると、もう無敵の集団になる。エレベーターに乗ることを批判する女の子は、1人としていなくなるのだから。

 

この話には終わりがないため、もうこの話をするのはやめるが、とにかくそんなわけで、わたしは今日、無敵の集団(しかもクローン!)に出会い、例に漏れず、足の裏にじっとりと嫌な汗をかいたのだった。

ちなみに、この記事に書いてあることは、あくまでも、わたしの個人的な意見・主張であるということを、忘れないでいただきたい。