今日もどこかへ帰りたい

帰る場所なんてない、都合のいい女の独り言

ゆびきりげんまん

「どうして好きな人って表現するの?あっ、彼氏じゃないの?なのにやることやっちゃってるの?でも彼女にしてくれないんだ?」

 
要約するとそんな内容のツイートを見かけたことがある。わたしに向けられたものではないにしろ、少しカチンときたツイートだった。
 
うるせえなと思う。こちらの事情など何も知らずによくも言えるなと思う。基本的にはTwitterで自分の言いたいことを喚き散らかしてきたわたしだから、これはものすごい強烈なブーメランであるのは分かってはいる。けれど、もう本当に心底うるせえなと思う。
 
恋人とはなんなんだろうか。
 
「好きです。お付き合いしてください」
「わたしも好きです。喜んで」
 
この会話が成立しなければ恋人ではないのだろうか。お互い好きなだけでは恋人にはなれないのだろうか。どこからどこまでを恋人と言えばいいのだろうか。ハグをしたら、キスをしたら、セックスをしたら、恋人と言ってしまってもいいのだろうか。そうすると、わたしと好きな人の関係は一体なんなんだろうか。
 
ここで、恋人について調べてみた。
 
こい-びと〔こひ-〕【恋人】の意味
「恋人」は恋しいと思っている異性で、多く相思相愛の間柄についていうが、片思いの場合にも使うことがある。
 
なんだ。片思いでもいいんじゃないか。恋しいと思っている相手であれば、恋人と言ってしまってもいいんじゃないか。それならわたしにとって彼は恋人だし、彼にとってもわたしは恋人になるのかもしれない。そう思うと、なんだか恋愛についてあれこれ悩んだ末に出来上がってしまった心の中にある階段を、一段登ったような気がした。わたしにとって、彼は恋人。そうか、恋人なのか。わたしは、彼のことを恋人と、せめて心の中でだけは思っても良いのだ。
 
今日、少しだけ彼と話をした。彼はいつも通り、テレビやパソコンなどあちこちに興味が飛んで行っては話の腰を折り、わたしの話なんてちっとも聞かなかった。ここ最近、彼との関係性について考え気分が落ち込んでいたこともあり、また、彼が相変わらずの様子であることをいいことに、わたしはこんなことをボソッと呟いた。
 
「そっちで君が他にいい人見つけられないのなら、もうわたしがもらうしかないなあ」
 
彼からの返事はなかった。もちろん、気まずくなったのではない。ただ単に聞こえていないのだ。わたしの話など。それを知っていて、わたしはさらに続けた。
 
「ね、もらってもいい?わたしがもらってもいいかな?」
 
わたしからのクエスチョンマークがようやく耳に届いた彼からの返事はこうだ。
 
「え?ああ、うん」
 
彼が話を聞いていないにしろ、わたしが勝手に言ったことにしろ、彼からの「お婿にいきます」宣言をしっかりと聞いたわたしは、とても満足した気持ちになって、その後、わけもわかっていない彼とゆびきりげんまんをした。もちろん、本気に受け取ったりはしない。彼がうわの空の中で発した言葉だなんてことはよくわかっているから、どうせこの口約束にはなんの効力もない。それでも、うわの空でも、彼からのイエスの返事は嬉しかった。
 
わたしと彼は出会って半年で、お互い好きだよと言い合ったことはあるけれど、正式に付き合ってほしいだなんて言葉にしたことはないし、しかも今は800kmも離れた場所にいるけれど、彼はわたしからすれば恋人だし、しかも、冗談でも、お婿にきてくれる約束をした、大切な恋人だ。今、将来に対して様々な不安で押し潰されそうで、精神的に不安定なわたしにとって、その気持ちだけが、唯一少しだけ、わたしを前向きにさせてくれるのだった。
 
ちなみに、ゆびきりげんまんの後の会話は以下のように続く。
 
「ゆびきりげんまんはいいけど、でもねえ、おれ、長男だから。お婿にいけるかどうか」
「えっ、聞こえてたんだ…」
 
わたしと彼のゆびきりげんまんが、嘘ではないことを心から願っている。